立って座を占めてしまいました。
 おぞましくも、米友はそれにリードされたのみならず、弥勒寺長屋の時のように、たんかをきって、それを咎めだてすることをさえ為し得ず、唯々《いい》としてお銀様に導かれて、自分も、さいぜんの夜船の座に直りました。
 これは、いかに米友理窟を以てしても、ちょっと文句がつけられないのです。というのは、傲慢であろうとも、無作法であろうとも、ここに鎮座し給う覆面の女将軍は、まごう方なきこの地方の新領主であることを、米友の理性が許しているから、自然、この家の軒下であろうとも、縁の下であろうとも、竈《かまど》の下であろうとも、この女人の王土のうちでないということは言えない。してみれば晴天であろうとも、深夜であろうとも、王者が王土に親臨し給うことに於ては文句がつけられない。我々は、たとい王臣というものでないとしても、その王土の中の一種のかかりうどなのだ。
 そういう理解の下《もと》に、多分、米友はその王者の傲慢無作法を許していたのだろうと思われます。
「友さん、今晩、わたしを此家《ここ》へ泊めて頂戴な」
 充分に座が定まってから、女王の第二段の勅命がこれでありました。
「う
前へ 次へ
全439ページ中156ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング