動いたほどには動きませんでしたけれども、それでも、誰かに見咎《みとが》められたと感づいたものか、静かに軒をめぐって、姿を隠してしまいました。それは尋常の者ならば認めきれないほどの、かわし方でありましたけれど、相手は宇治山田の米友でした。
彼は、それだけで、たしかにこの家の外に今まで立っていた人がある、そうして、この軒下、雨だれ伝いに、すうーっと走って行ったことも確かである、どの地点に何時間立っていたか、或いは、ここまで新参早々で軒下を走ったものだか、その辺は明瞭《はっきり》しないが、たしかにこの家のまわりを、うろつく人影があったことを、米友は確実に感づいたのみではない、確実に認めたのだから猶予はなりません。
といって、ここから直接に飛び出すのは無謀です。第一、地の利もよくない上に、履物《はきもの》がないのです。さすがに武術の心得があるだけに米友は、地の利と足場とを無視してかかるような無茶な振舞はしない、いかに心は慌てても。
飛び出すにしても、草履《ぞうり》をはかなければならぬと考えました。考えると共に、ここには草履が無い、表口まで行かなければ、それを足にすることはできないと覚りま
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