ます。
「ねえ、米友さん、今夜、ここへあの方をお泊め申して上げましょう、いいでしょう?」
 お雪ちゃんの言葉が、妙に甘ったるい。
「ははあ、読めた!」
と米友が、けたたましく叫んで、竜之助とお雪ちゃんの面を忙がわしく等分に見比べようとしました時、何に狼狽《ろうばい》してか、お雪ちゃんの面が真赤になった――少なくとも真赤になったような感じ――それと反対に、面を撫でている竜之助の面がいよいよ蒼白で、嘲るような皮肉さえ交えて見え出してきました。

         二十九

「先生、こちらへいらっしゃいよ」
と、お雪ちゃんは竜之助の方を向いて言い、それから米友に対して、
「友さん、奥のお座敷をこしらえて置きましたから、あちらへ、このお方をお泊め申して上げましょう」
と、二人に向って同時に物を言いかけました。
「勝手にしろ」とも米友は言いませんでした。今まで姿を見せなかったのは、つまり、この不時の珍客のために、奥の座敷に手入れをして、請《しょう》じまいらすべき室をしつらえていたのだ。
「友さん、そうして、あなたは、どこへお寝《やす》みになるの」
とお雪ちゃんが、まだ立ちながらの半身《はんみ》で
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