言う。米友はそれに答えました。
「おいらよりか、お前はどこへ寝むんだ」
「わたし」
とお雪ちゃんは、あんまりわるびれずに、
「わたしは、あちらで、先生のお傍へ寝ませていただきましょう――その方が、何かにつけて……」
「うむ」
と米友は火箸をいじりながら頷《うなず》いて、
「おいらは、ここでいい」
「では、ここへお蒲団《ふとん》をこうして置きますから、友さんの好きなところへお寝みなさいな」
「うむ」
「先生、こちらへいらっしゃい」
お雪ちゃんはするすると歩いて来て竜之助の手をとって、抱えるようにして奥の座敷の方へ、畳ざわり静かに歩んで行くのです。
無論、その時には、竜之助の方は面も一通り撫で終って、剃刀も手さぐりで箱の中に納めてしまい、軽く立ち上ると、一方の手はお雪ちゃんに与えて、そうして、一方では刀を提《さ》げて、するすると奥の間の方へ消えて行ってしまいました。
あとを見送った米友は、ふーむと一つ深く鼻息を鳴らして、そうして、そこはかとなく四辺《あたり》を見廻したものです。
さきほどまでの、先へ寝むの寝まないのという仁義と遠慮とが、ここでは全く問題になりませんでした。
お雪ち
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