丸の松の根方の芝生の上で、真剣になって型をつかいました。川中島の時は、たしか月の夜でありましたが、ここは、おろちの棲《す》む胆吹山下、降るような星の夜であります。
今、米友が縦横無尽にその型をつかい出しました。
それは何の型? 御承知の通り、この男には特に何流何派の型というのは無いのです。幼少の頃、淡路流を少し学んだということのほかには師に就いたことはないが、その後、おのずから独流の型は出来ているのです。本人はそれを型とは気がつかないで、ひとり自己陶酔で、舞いつ踊りつしているようなものだが、見る人が見ると、その奇妙きてれつなる、型にあらずしておのずから型に合っている。ただ惜しいことには、見る人に見せる場合にのみ、この男の芸術的昂奮が起らないことです。無心したところで見ようとしては見られず、無心しなくても突発的に、川の中であれ、山の下であれ、起るべき時に起るその芸術的昂奮と自己陶酔――当人が見せようと思ってやるわけではないから、周囲が見ようと願っても見られない代物《しろもの》。
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「一ハ打《だ》シ、一ハ刺ス、棒ニ刃《やいば》ナクンバ何ヲ以テ刺スコトヲ為《な》サン
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