風を切って松の枝下から、ある程度まで舞い下ったらしい大鷲――それと迎合しようとして、まだ脾弱《ひよわ》い羽をのして、空中に向ってはばたきをする子鷲――
やや暫く、空中と地上との闇の宙宇《ちゅうう》で、二つの鷲が舞いつおどりつしていたもののようであったが、やがて、のしきった羽風の音が、胆吹山の山上へ向って真一文字にうなり出すと、それで、さしもの動揺が全く静まり返ってしまいました。
つまり、解放された子鷲は、親鷲にすがり、取戻しに来た親鷲は、首尾よく捕われの子を拉《らっ》し得て、翼の上に載せたか、爪でかき提《さ》げたか、暗いからその細かいことはよくわからないが、完全にわが子を取戻して、そうして親子は夜空に羽風をのしつつ、古巣をめがけて飛んで行ってしまったことは確実なのであります。
その時、米友は庭へ下りて、松の丸の大木の根方に立って、鷲の飛び去った方の胆吹山の空をのぞんで突立っていました。
宇治山田の米友は、こうして、しばらく空をながめて突立っていましたが、なんとなく名状し難い、一種の空虚な感じが頭の中にわいて来て、たまらなくなったものと見え、松の根方に、またも二度三度、じだんだを
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