を数え、間《あい》の山《やま》の灯《ひ》の赤いのを恨みわびながら明かしたことも、一晩や二晩ではなかったのであります。
しかし、そういう時に米友はお君のところへ相談に行くことをしなかったものです。お君へ相談に行けば、お君がまた気の毒がって身の皮をむいて身代りをしてくれるにきまっている。他の苦しみを自分が背負うのはやむを得ないが、それをまた背負いきれないで他に転嫁するということは、結局苦しみの盥廻《たらいまわ》しをするだけのことで、苦しみそのものの救いにもならないし、解消にもならないということを、米友はよく知っておりました。
そこで米友はガッチリと歯噛みをして飢えと寒さに顫《ふる》えながら、曾《かつ》て一度も苦痛の声を漏らしませんでした。しかしながら、そういう場合に大楼の店先などを通って、銭金を湯水の如くつかう人や、物売りの店棚でおいしい御馳走のにおいをプンプン嗅がせられた時など、彼もクラクラと眼がくらんで、フラフラと足が顫えることがありました。それにも拘らずついにこの男の正義心が、ビタを一枚盗むこと、物を一つちょろまかすことを、絶対に許しませんでした。
それから、あんなわけで故郷を
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