同じでありました。違うのは、パッと睡眼を醒《さま》すと共に、白雲は枕許の太刀《たち》を引寄せたけれども、駒井は蒲団《ふとん》の下の短銃《ピストル》へ右の手が触っただけのことでした。
のんのんと瞬きをしつづけている有明の行燈の下に、人が一人、うずくまっている。
「御免下さりませ」
「そちは、何者じゃ」
「お静かにあそばしませ」
「何しに来た」
「駒井の殿様、わたくしめでござります」
「や、七兵衛ではないか」
うずくまっていて頬かむりの頭を上げて見せた面《かお》は、駒井としては、全く見紛うべくもない七兵衛おやじです。
「深夜、お騒がせ申して相済みませぬが、七兵衛は只今、この奥御殿の天井裏の忍びの間、武者隠しと申すのに暫く隠れておりますが、今夜、殿様のおいでが、願ってもない仕合せでございました」
「どうしたというのだ、何で、そちはこんなところの天井裏に隠れている。船ではみんなそちの来るのを待兼ねている、田山君もそちの案内で無事に船に着いている、それにそちだけが――どうしてまた、そんな姿で、こんなところに――」
駒井甚三郎は、七兵衛そのものは、洲崎で働いてくれた七兵衛に相違ないが、その内
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