大菩薩峠
白雲の巻
中里介山

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)勿来《なこそ》の関

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)古人|冠《かんむり》を正し

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「彳+低のつくり」、第3水準1−84−31]
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         一

 秋風ぞ吹く白河の関の一夜、駒井甚三郎に宛てて手紙を書いた田山白雲は、その翌日、更に北へ向っての旅に出で立ちました。
 僅かに勿来《なこそ》の関で、遠くも来つるものかなと、感傷を逞《たくま》しうした白雲が、もうこの辺へ来ると、卒業して、漂浪性がすっかり根を張ったものですから、※[#「彳+低のつくり」、第3水準1−84−31]徊顧望なんぞという、娑婆《しゃば》ッ気も消えてしまって、むしろ勇ましく、北地へ向けてのひとり旅が成り立ちました。
 得てして、人間の旅路というものはこんなものでして、ある程度のところで、ちょっと堪《こら》えられぬようにホームシックにつかまるが、これが過ぎる
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