容は全く別物か――どうかすると、或いは七兵衛の幽霊ででもありはしないかとさえ疑われるほどの眩惑を感じました。
「はい、その御不審は御尤《ごもっと》もでございますが、この七兵衛は当分の間――まあ長くて七日間――はこの瑞巌寺様の構内から一寸も出られない余儀ない羽目になりました――これと申すも、よせばよいのに、年甲斐もない悪戯心《いたずらごころ》がさせた業でございます、仔細はいずれおわかりになりましても、お聞捨てにあそばして下さりませ。ただ一つのお願いは、七日の間の兵糧が少しばっかり欲しいのでございます、お握飯《むすび》なり、おかちんなり、ほんの凌《しの》ぎになるだけ――お松にでもお言いつけ下さって、あの、こちらのお庭の臥竜梅がございます、あの梅の大木のうつろ[#「うつろ」に傍点]の中へ、明晩でもひとつ……」
「ふーむ」
「なにぶんお願い申し上げます、委細は、あとからお耳に入ることもございましょうが、それにいたしましても七兵衛は、本来善人なんでございますから、白雲先生なぞはかまいませんが、若い者にはなるべくこんなことは聞かせていただかない方がよろしいんでございます」
「何を言っているのだ、ど
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