だよ」に、二の句がつげないでいると、立てつづけに、「よしんベエはねえ、吉原へお女郎に売られたんだから、殿様、買いに行っておやりよ」とやられて息がとまりそうになるところを、畳みかけて、「あたいも、いまに稼《かせ》いでお金を貯めて、お女郎買いに行くの、よしんベエを買いに行ってやらあ」
 友達が売られたのを、お小遣《こづかい》をもらっておでんを食いに行くと同様に心得ている返答に、神尾主膳が胸の真中をどうづかれて、ひっくり返されてしまった。そのこと以来、特に主膳は子供の肉声に怖ろしき圧迫を感ずるようになったのです。で、この肉声を聞くと、三ツある目の真中のが、にちゃにちゃと汗ばんできて、心も、色も、物狂わしくなってきて、立ち上ったかと思うと、お絹の部屋へ走り込みました。
 そうして、あちらこちらと部屋中をかき廻して、その最後が戸棚を引きあけると、その中をがらがらひっかき廻し、そうして見つけ出したのが、多分、西洋酒の一リットル入りばかりの小壜《こびん》であります。それを見ると、主膳は栓《せん》をこじあけて、グッと飲みました。
 これは何という種類の酒だか主膳は知らないが、黄色い液体がまだ六分目ほど
前へ 次へ
全227ページ中220ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング