《そむ》いて去ったのだから、こちらに責任が無いと言えば言うものの、自分の周囲に人を引きつける徳がなく、人を容れるの量がないのかということを想像してみると、駒井といえども、いとど心淋しさを催さずにはおられないのでしょう。
 古来英雄というものには、みな人を引きつける一つの力を備えている。憎まれながらも、恐れられながらも、人がそれについて行く。人がそれから離れられないという力があるものだ。然《しか》るに自分は――英雄であるとはうぬぼれていないが、自分に附く人よりも、自分から離れる人の方が多く、自分のよしと信ずる理想が、人から喜ばれるよりも、人から斥《しりぞ》けられるものばかりが多いように思われてならない。第一、自分の妻が、もう最初から自分を離れている。お君が離れた。従ってあの米友という礼儀はわきまえないが、心実の確かな小男も、自分を離れたというよりは、むしろ怨《うら》んで去った。神尾主膳の陥穽《かんせい》にかかって、自分は半生を葬られてしまったようだが、実はやっぱり自分は、その地位を保つだけの徳がなく、職を辷《すべ》るだけの欠陥があったせいだと見られないこともない――駒井はこんなことを考え
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