した。眼を拭ってもう一度見直そうとした途端――白雲がはっしとばかり思い当ったことがあります。われながら迂濶《うかつ》千万、実は昨日、船を立つ時に、駒井氏から借用して来た「遠眼鏡《とおめがね》」というものが、ここにあるではないか。この行李《こうり》の中に納めて来て、こんどはこれをひとつ充分に活用してやろうとの楽しみが、こんどの旅程の一つの新しい景物と期待していたのを、今まで忘れていたのだ、こういう時だ、この時だと気がつくと、白雲は急いで行李を解いて、その中から取り出したのが最新式の「遠眼鏡」であります。
二十七
この「遠眼鏡」をもって、田山白雲が対岸の渡頭の船頭小屋のあたりに照準を据えた時、不意に右の船頭小屋の後ろから雲つくばかりの大きな男が飛び出したのを認めました。
ははア、出たな、裏の方から出たな、出は出たが、今までの悠長さに引換えて、これはまた、すばしっこい飛び出し方だ、と呆《あき》れているうちに、その飛び出した大男が、河岸《かし》の舟の方へは来ないで、右手の小高い方へ一目散に何か抱えて駈け出して行く。どうも変だと見ていると、続いてまた、同じ船頭小屋のうし
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