のぼり流るる勢いに眼を拭いました。
「ははア、これが北上川だな――」
白雲はここで初めて、北上川というものの印象を新たにしました。
北上川そのものを見ることは今にはじまったことではないのです。現に昨晩泊った石巻の港が、その北上川の河口にあるので、今日はまたその沿岸を溯《さかのぼ》って来たのですから、北上川とは絶えず道連れになって来たのに相違ないが、ははア、これが北上川だなと印象を新たにして、例によって限りなき旅心を湧きたたせたのは、この渡頭に立った時が最初であると言わなければなりません。
立って北上川及びその彼方《かなた》、漠々と連なる陸奥《みちのく》の平野を見ているうちに、白雲は旅心濛々《りょしんもうもう》として抑え難く、やがて大きな声をあげて歌い出しました。
感|来《きた》って吟声が口をついて出でるのは、白雲も元来が多情多恨の詩人的素質を多分に持って生れたのみならず、これは清澄の茂太郎を育てつつある間に、それにかぶれたところもあると見なければなりません。その白雲の吟懐を、清澄の茂太郎がまた反芻《はんすう》して輪をかけるということになり、即興と出鱈目《でたらめ》とに於ては、師
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