壺之腹縦摸筆(瓠壺《ここ》の腹に縦《ほしいまま》に筆を摸《さぐ》り)
収拾五十四郡山(収拾す五十四郡の山)
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 打見たところでは一律のようになっているが、二絶句である。この詩と句とによって考えると、平五郎という俳諧師《はいかいし》が、遥々《はるばる》ここへ旅に来て、同好の士がこれを迎えた。平五郎という人は近世の俳人で、そうして、これによって見ると、都から遥々旅をして来た人だ。路三千とある。山河遍歴に於ては芭蕉に勝るとも劣らない人と見える。そこで白雲も、身に引比べて何かしらこの六枚屏風の余白に一つ書いてやりたい気になって、御苦労千万にも、一旦ついた枕をあげて、帯を締め直し、行燈《あんどん》をかき立て、筆墨の行李《こうり》を開きにかかりました。
 白雲は屏風の余白へ何か書いてみたい気になりましたが、さて、お手前ものの絵を描く気になれませんでした。
 何か字を書きたい、といったところで、その文字も咄嗟《とっさ》に平仄《ひょうそく》を合わせて詩を作るの余裕もなく、また、あまり自信もない和歌や俳句の速成をのたくらせて、この道の泰斗名家のあとを汚すほどの向う見ずもやりたくな
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