》、志田、仙台の界隈《かいわい》をそう遠く離れるに及ばないということを、白雲は白雲なみに断定して、漫然とこの北上川の沿岸を漂浪しているうちには、何とか手がかりがあるだろう。奥羽第一の大河としての北上川の沿岸をぶらついているうちに、その風光を画嚢《がのう》に納めなければならない。本来はこの方が本業なのだが、ここに白雲の仕事がまた一つ加わって、つまり、一石四鳥の目的のために、当分はこの辺をぶらついて、ということに思案を定めました。
 その思案が定まった時分に、番頭が蔵《くら》から七兵衛おやじからの預り物、つまり、房州洲崎の暴動の際に、手早く、かき集めて、ここまで持って来てくれた白雲の財産――といっても、写生画稿が主であって、一般経済の上には大した価値のある代物ではないが、自分の丹精の無事なのを見て、
「これ、これ――まず、これで安心」
 白雲は、一応あらためてみて大安心をして、その荷物をまた一からげ、帰りまで更に保管を託して置くことにしました。
 そうして、夜具をのべてもらい、枕に就くと女の子が、六枚屏風を持って来て、立て廻してくれました。六枚屏風は少し大形《おおぎょう》だと感じましたが、
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