その手重いところが、また、旅情の一つと嬉しくも思いました。
そこで、枕について、それとなく立て廻された六枚屏風を見ると、それは月並のつく芋山水《いもさんすい》を描いたものでなく、いろいろの文字を寄せ書してある様子が異っているから、また少し枕の向きをかえて見直すと、一目でわかる旅姿の芭蕉《ばしょう》の像を描いて、その上に文章が記してある。
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「終《つひ》に道ふみたがへて、石の巻といふ湊《みなと》に出づ。こがね花咲くと詠みて奉りたる金花山、海上に見わたし、数百の廻船、入江につどひ、人家地をあらそひて、竈《かまど》の煙たちつづけたり。思ひかけずかかる所にも来《きた》れるかなと、宿からんとすれど、更に宿かす人なし。やうやうまどしき小家に一夜を明す」
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これを読んで田山白雲が、ははあ、「奥の細道」だな、「奥の細道」も、松島や平泉のところの名文は空《そら》に覚えているが、こんなところはあまり気がつかなかった。宿からんとすれど、更に宿かす人なし――か。なるほど、芭蕉翁の如き名人でもこれだな、我々が、こうして田舎《いなか》廻りをしていながらも、とにかく
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