はよくわかってくると共に、自分というものの不在中を残念がらずにはおられない。
 なあに、あのウスノロ如きは、自分がいさえすれば頭から威圧して、文句は言わせもしないのだが、船長としての責任ある地位で、かけがえのない無頼の労働者を、だましだまし使用する苦衷は、自分のようにそう一本調子にいくものでないことを、白雲といえども駒井のために推察するだけの思いやりは持っている。そこで、白雲は身を乗出して言いました、
「うむ、そのこともあったっけな。許し難い奴だ、あのマドロスめ――もう一ぺん締めてやらなければ。よしよし、その方も拙者が引受けよう、七兵衛おやじの方といっしょに、ウスノロの奴も近いうちに見つけ出して、有無《うむ》を言わさず、これへ引きずって来てみましょう。七兵衛おやじは思慮があるだけに雲をつかむようだが、ウスノロの奴は、なあに直ぐと、とっ捕まえますよ。第一、あの赤髯《あかひげ》と碧《あお》い眼で、日本娘さんと道行なんて、ドコまでそんなフザけた洒落《しゃれ》が利《き》くものか、いくら奥州の果てにしたところで、あれで晴れての道中ができたらお慰み、どこかに隠れ忍んでいるうちは無事だが、ウスノロと
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