とができるかも知れません、さあ、わたしを、どこへなりとやって下さい」
こう言って、息をきりながらも、落着いて促し励している呼吸は、たしかなものです。
それでもお松から、行けとも、止れとも命令の出ないのをもどかしがって、
「ね、あなたは、七兵衛おじさんを尋ねて、こんなに心配苦労をしているのでしょう、わたしもそれが急に気にかかってたまらないから、それで、ここまで抜けがけをして来たのですよ、七兵衛おじさんはどうしました、あなたが暗示をさえ与えて下さるなら、わたしならきっと嗅ぎつけて上げます、さあ、早く」
こう言って、ムク犬から促し立てられていることはたしかに受取れるが、お松はそれに、指図も、命令も下す気にはなれないようです。
「ムクや、お前の志は有難いけれど、実は、わたしにも、何が何だか、ちっともわからないのですよ。どうも、この胸は心配で心配でたまらないけれども、また、七兵衛おじさんが、そう滅多に人に捕まるようなはずはないとも思われるから、安心しているところもあるのです。それですから、お前のような強い犬をやって、もしあやまってお役人を傷つけたりなんかして事壊しになってはいけないから、そ
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