またまっしぐらに遠くの岸の方をのぞんで泳ぐこと、泳ぐこと――この状態がついに、船中の田山白雲にも解しきれなかったくらいですから、玉蕉女史にも、附添の老女にも、船夫風情にも合点《がてん》のゆきようはずはありません。
ひとり、清澄の茂太郎が、それから船一杯にうろたえ廻りました。
「先生――大変です、ムクが眼の色を変えて飛び出しました、あの犬が眼の色を変えて飛び出すからには、よほどの大変があると見なければなりません。ごらんなさい、これほどわたしがうろたえているのを顧みもせず、真一文字に海を泳ぎきって行くのをごらんなさい、岸へ向って行くから、変事はきっと岸の方にあるのです。ですけれども、岸は遠いです、ごらんなさい、町の火影《ほかげ》が星のように小さく、あんなに微かに見えるではありませんか。皆さん、わたしたちは興に乗じて少し来過ぎました、岸が遠過ぎます、いかにムクだって、翼があるわけではありませんから、この海を泳ぎきって、あの岸まで行く間には時間がかかります――ああ、わたしたちは、いい気になって、月に浮かれ、景色にみとれ、少し遠くまで来過ぎてしまいました」
茂太郎は、こう言って船べりに地団駄
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