れから仙台郷へ入って、なるべく郷《ごう》に従わんとする用意としての、奥州語の会話の練習を兼ねんがためでありました。
 ここで、気を練らして白雲が、夫婦を相手の会話の中から判断して、幾つかの仙台語のうちの単語を修得し、これを画帖の端へ、ちょいちょいと書きつけたものです。その一例を言えば、
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△いぎやる――これは、普通、おっしゃるということらしい
△はるなたをこく――これは偽《うそ》を言うということらしい
△にし――おぬしということだ
△ほいちょう――ほうちょうのことだ
△じいごばあご――じじ、ばばのこと
△われ様――おぬし様ということ
△よだっぽれ――馬鹿とか阿呆《あほう》とかいうこと
△ねいきをこく――腹を立てること
△なまだらくさい――じだらくなこと
△なじょたがな――何としたということ
△むぞい――可愛ゆいということ
△うちゃせた――忘れたということ
△やくと――わざとということ
△まくらう――食うこと
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 川の肴《さかな》で一ぜん飯を食いながら、大体に於て、こういう奥州語を、聞くに従って判断しつつ、白雲は画帖のわきへ幾つも書き並べて、
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