三

 そこを立ち出でてから路傍の人をたずねて、事のいわれを問うてみるが、一向に要領を得ない。要領を得ないのではない、得させないのは、言語の不通がさせるのだ。
「おらあ、おくにやあ、くちいたてばっても、あんな折助言葉、うざにはくわなあ」
 さても鴃舌《げきぜつ》の音、一時ムカとしてもみましたけれど、いやいや、ところかわれば品もかわるのだ、かえって、先方は、こっちの江戸弁――をさげすんで、嘲っているようでもある。今も子供が言った一語、「折助言葉――」だけが、耳ざわりに残っている。身不肖にして小藩に人となり、田舎まわりの乞食絵かきのようなザマはしているが、未《いま》だ曾《かつ》て折助風俗に落ちた覚えはないのに、陸奥《みちのく》の涯《はて》へ来て、しかも子供の口から、こういったあざけりをあてつけられようとは、あさましい。
 白雲が舌を捲いて、名取川の岸まで来ると、そこで、一ぜん飯屋に身を投じました。前の川で取った川魚を炙《あぶ》って、そのまま食膳に供えて客を待つ。
 白雲は、ここで亭主と女房とを相手に、わざと悠々と構えて、四方山《よもやま》の話をもちかけたのは、一つは、こ
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