得ない事態に至りました。その内容節調にして穏かなる二重奏でない限り、それが同時に起るとすれば一方が一方を乱すか、或いは一方が沈黙してしまうか、両者同時に相譲るかでなければ始末のつきようはずはないのであります。礼儀としてもこれは許せないことですが、相手が箸にも棒にもかからない代物《しろもの》だけに、白雲も面《かお》負けがせざるを得ません。
さすがの白雲をして、せっかくの朗吟を中止沈黙のやむなきに至らしめた無作法者の、清澄の茂坊であること申すまでもなく、白雲をして、中止沈黙のやむなきに至らしめたことをいいことにして、茂太郎がいよいよ独擅《どくせん》を発揮し、独擅といっても、元はといえば、内容節調みな白雲先生の直伝《じきでん》によるところのものに相違ないが――
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海上の明月、潮《うしほ》と共に生ず
ゑんゑんとして波に随ふ千万里
何《いづ》れの処か春江月明なからん
江流ゑんてんとして芳《はう》てんをめぐる
月は花林を照して皆|霰《あられ》に似たり
空裏の流霜飛ぶことを覚えず
汀上《ていじやう》の白沙見れども見えず
江天一色繊塵なし
皓々《かうかう》たり空中孤月輪
江畔|
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