をもってしてくれる証拠には、その法衣ざわりが全く和らかで、最初から窒息させるつもりもなく、抑留の気分もなかったことでわかります。それは獲物《えもの》を捕えるために張った蜘蛛《くも》の巣でないことはわかっているが、さりとて、お松の力でこれを払い除けて走ることは、その法衣の袖が和らかに出でてあるほどにかえって、困難なことでありました。そこで、お松としては、あのすさまじい現場へ走り込むことを遮《さえぎ》られたのみか、その現場を見届けることをさえ抑えられてしまった形で、どうすることもできないで、全くその瞬間だけは、蜘蛛の巣にかかった小蝶と同じような運命に置かれました。
二十
これより先、田山白雲が、今日は少し早目に宿へ帰ってしまったのは、不意にやって来た清澄の茂太郎の足もとがあぶなっかしいので、それが心配になるのと、もう一つはかねて約束が一つありました。
仙台の閨秀詩人《けいしゅうしじん》、高橋玉蕉女史の招待で、今晩あたり松島の月を見ようとの誘いを受けていたものですから、その心がかりもあって帰って見ると、果して玉蕉女史から使がありました。
少し時刻は早いが、観瀾亭《
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