》なお百姓さんで苦労なく一生を暮して行かれようものを……駒井の殿様だってそうです、あの御器量と、学問さえ無ければ、立派なお旗本として、わたしたちなんぞはお傍へも寄れないところにいらっしゃれるはずなのを……
 人間は、能が無いために苦しまないで、能があるために苦しむ、人に優れたものを持つが故《ゆえ》に、かえって人並よりも苦しまなければならない。自分なんぞは何も能は無いくせに、苦しい運命に置かれることだけは人並以上な心持もするが、それは自分だけの勝手の見方で、能がないからこそ、このくらいの苦労で済む――もし何かすぐれたものがあれば、もっと苦しい思いをさせられなければならないのかも知れない。そうです、そうです、あのお君さんを見てもそうです。あんな美しい容姿に生れなければ、あんなかわいそうな一生を終らなくてもよかったでしょう、わたしも不幸だけれども、あの人も不幸でした。たしかにあの人の不幸な一生は、わたしの不幸な今までよりも増している。かわいそうな人でした、お君様は……
 米友さんはどうしているんだろう。あの人は、ああいう人だから、怒っているのか、悲しんでいるのかわからないが、自分の運命が恵ま
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