がんば》っていたものですから、うんざりせざるを得ませんでした。
そこでお松は、田山白雲をと思って、庫裡《くり》から客殿の方をたずねてみましたけれども、今日は早帰りをしたと覚しくて、杖も、下駄も見えません。
また庭へ戻って見ると、イヤな桶屋さんは相変らず頑張って、こんどは聞きたくもない鼻唄まじりでいるのが、いよいよ憎らしい。といって、退《ど》いて下さいとも言えず、ぜひなくお松はまた舞い戻って、ではともかく、一旦は宿へ引取ってからと思いました。
遠くもない新月楼へ来て見ると、田山先生も先刻お戻りになったにはなったが、お客様からお誘いが来てどこへかおいでになったとのこと。お松は部屋へ戻って、ひとまず休息して、また出直そうと思いました。
だが、出直すにしても、桶屋さんがあの調子では手もとの見える間は、あすこからみこしを上げそうにもない。しかし、いかに頑張ることが好きな人とはいえ、夜になればイヤでも仕事をやめて立ち上らなければなるまいから、いっそ夕方まで我慢して、黄昏時《たそがれどき》に行けば間違いはない――とこう思案して、お松は焦立《いらだ》つ心をおさえながら、田山白雲のためにも、何か
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