いることなんぞも、更にお気附きのあろうはずがありません。
 江戸に残された、道庵の股肱《ここう》と頼まれたデモ倉とプロ亀――の二人が、道庵不在を好機として、容易ならぬ反逆を試みたことは、以前にも少し記しました。
 本来、デモと言い、プロと言い、道庵ある間は、天晴れ貧民の味方で、先棒をかついでいたが、本来何も特別の主義信念があって、道庵と行動を共にしていたというわけではなく、道庵に一杯飲ませられたのと、道庵の一面に備わっている暴君的独断に圧迫されて、寄りたかっていたのだから、少しでも、そのおみき[#「おみき」に傍点]と、圧迫から離しておかれれば、どっちへどうにでもなる連中です。
 それのみならず、盟主と頼む道庵は、十八文をふりかざして、大いに貧民の味方らしくは振舞っているが、酒気に乗じて横暴を揮《ふる》い、独断を通し、時には暴力を以て、子分の者の頭にガンと食《くら》わすことなんぞもあるものですから、内々、反抗気分を蓄えていないではなかったが、存在する間は道庵の威力|如何《いかん》ともし難く、暴力をもってガンと食わせられても、道庵のはあんまり痛くありませんでしたから、我慢をしていましたが、
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