我慢しきれないのは、さほどに横暴を極めながら、同志の者に廻す小遣《こづかい》がいかにも道庵並みにシミッタレていたことです。
これではたまらない、いつかしかるべき親分に乗り替えて、もっと飲めるようにしてもらわねばならないと考えていました。
ところで、このたびの上方《かみがた》のぼりこそ究竟《くっきょう》である。この留守中に、すっかり長者町に於ける、道庵の人気をさらってしまおうとの計画が実行され、その一つとして、多年十八文で売り込んでいる道庵よりは、三文安の十五文を看板にして、年も道庵よりはグット若い橋庵《きょうあん》先生というのを、担ぎ上げ、この方が道庵よりは少なくも三文は格安で、それだけ大衆向きであるという宣伝をさせました。
どうだ、これで胸が透いたろう、道庵の奴、いい気持で、江戸へ帰りつく時分には、お株はすっかり橋庵先生に奪われて、立場を失って、ベソをかく面《つら》がまえが見てやりたい、どんなものだい。
デモ倉と、プロ亀が腮《あご》を撫でましたが、ここに風のたよりに名古屋に於ける道庵の人気を聞くと、たまらないものがあります。名古屋に於て道庵が、ほとんど国賓待遇を受けているとい
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