大菩薩峠
畜生谷の巻
中里介山

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)藍色《あいいろ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)祖先|発祥《はっしょう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)なさか[#「なさか」に傍点]
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         一

 今、お雪は、自分の身を、藍色《あいいろ》をした夕暮の空の下、涯《はて》しを知らぬ大きな湖の傍で見出しました。
 はて、このところは――と、右を見たり、左を見たりしたが、ちょっとの思案にはのぼって来ない光景であります。
 白骨谷《しらほねだに》が急に陥没して、こんな大きな湖になろうとは思われないし、木梨平の鐙小屋《あぶみごや》の下の無名沼《ななしぬま》が、一夜のうちに拡大して、こんな大きな池になろうとも考えられない。そうか知らん――いつぞや、白衣結束《びゃくえけっそく》で、白馬の嶺《いただき》に登って、お花畑に遊んだような覚えがある。ああ、そうそう、あの時に白馬の上で、盛んなる天地の堂々めぐりを見せられて帰ることを忘れたが、では、あれからいつのまに、白馬の裏山を越えて、ここへ
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