都」といった風情《ふぜい》を感じ得られたかもしれません。
 ただ、そんな比較を別にしても、久しく山谷の間にうずもれて来たお雪ちゃんは、ここへ来て、明媚《めいび》という感じに打たれて、思わず気分に多少の暢《の》びやかさを感じたのみならず、宿の自分たちの部屋が、ちょうど宮川にのぞんでいて、小さいながら行く水の面影に、人の世の情味を掬《きく》し、部屋も相当に綺麗《きれい》だし、風呂場も気持よく出来ている間に、やや陶然たる気味をよび起されました。
 風呂から出て、日暮の宮川のもやを眺めながら、燈の明るい座敷で、夕餉《ゆうげ》の膳に向った時などは、お雪ちゃんの心も春のようになって、今のさきまで、ついて廻ったイヤなおばさんの思い出などは、この瞬間に、すっかり忘れてしまうことのできたのは何より幸いです。
 まして、この近辺は花柳の巷《ちまた》でもあるのか知らん、お雪ちゃんがうっとりしている間に、三味線の音締《ねじめ》などが、小さな宮川の小波《さざなみ》を渡っておとずれようというものです。座敷も、幾間も明いていたものですから、竜之助だけは二階へ案内して置いて、自分は下に、その次の座敷には久助さん。
 
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