町の中に火が起ったのではござりますまいか」
と馬首をとどめて、兵馬が言いました。
なるほど火だ、火事としても小さからぬ火事だ。
二十八
イヤなおばさんの亡骸《なきがら》が、川西の旧宅へかつぎ込まれたその少し前つ方に、お雪ちゃんの一行は、ほとんどそことは目と鼻と言ってもよい、同じ宮川の岸の浅羽という宿屋に無事に到着しました。
白骨から平湯へ来ると、頓《とみ》に明るくなり、またこの高山まで来て見ると、全く人里へ出て来たような心持です。
他国にあってこそ、飛騨の高山といえば、山また山の奥の山里のように聞えますけれど、山から出て来れば、立派に一つの都会へ来た感じに打たれずにはおられません。
ここは昔の城下町として、今の代官の所在地として、長い間のこの国の行政の中心地を成しているだけに、すべて、それ相応の都会としての気分が、しっくり整っている。
もしお雪ちゃんが、一度京都あたりを見て来た人であるならば、この宮川のほとりへ来て、鴨川を思い起さずにはおられないはず、そうして周囲の光景がなんとなく、山城《やましろ》の王城の地を想わせて、詩人でなくとも、これにまず「小京
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