る、この珍しき友の、遠方より来《きた》るものに向っては、充分の好意を披瀝せねばならぬとでも考えたのでしょう、暫くして馬共は、欣《よろこ》んで二人のために背中を貸しました。
背中を貸すだけではなく、やや疲れたと見た時分には、草にふしたその腹を提供して、そこに凭《もた》れて眠ることをさえ許すの風であります。
かくて、二人はえりどりに、甲馬から乙駒、乙駒から丙丁へと、のり替え、かけ替え、その終日を、馬と共に遊び興じて、ついに帰ることを忘るるほどの興味に駆《か》られて、事ここに至ったのです。
行く時のつもりでは、ここでめぼしいのがあったら、二人で一頭ずつ曳いて帰るつもりでしたけれども、こうして馬を見ると、そのうちのどの一頭を選んで、自分のものにしようとの気分が、全くなくなってしまいました。
これはこのままでよろしい、やはり野に置け――と言い捨てた時分に、ああ、日がもう御岳へ隠れてしまった、さあ、帰りを急がねばならぬ……
二十七
そこで、二騎相つれて帰路にはついたけれども、せっかく、ここまで来た以上は、雌沼《めぬま》、雄沼《おぬま》へ廻ってみようじゃないかという動
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