たと見えます。
そこで彼等のうちの一隊は、イヤなおばさんの入れられた寝棺を、無意識に担ぎ出しました。われも、われもと、その寝棺に手がかかり、肩がかかると、お神輿《みこし》を揉《も》むが如くに、その寝棺を揉み立てると、それを自然に、後ろから火勢が煽るものですから、ちょうど水が溢れて、船が動き出したと同じように、いつか知らず、寝棺は家の外へとかつぎ出されましたが、棺にとりついていた幾多の人々は、半面|火傷《やけど》の者もあり、衣服にまで火のついたものもある。
「あ、熱《あつ》!」
「熱!」
火が室外に追い、熱さが、この一行を宮川河原まで追い出してしまいました。
やはりお神輿を揉むように、揉みに揉んで宮川の河原へ、一同が押し出した時分になって、あたり近所がようやく騒ぎ出しました。打てば響くように代官所が出動したのは、単にこれは、一民家の騒動だけではないと見たからであります。
二十六
かの高村卿と呼ばれた公達《きんだち》と、宇津木兵馬とは、この時、右の屋敷に居合わさなかったのは確実です。
それは、この葬式のために右の屋敷を立ちのいてしまったものではなく、公達と兵
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