触れた部分を腐らせてしまうものがある。もしそれを取って胃袋の中へでも送ろうものならば、たちどころに内臓の全部を顛覆し、人間の外体を一昼夜もころげ廻って悩乱させ、その全身を紫斑色にして虐殺してしまう。それに比べると、今晩この連中を昂奮せしめた茸氏は、社民系に属するものと見てよいかと思う。
昂奮させ、反抗させ、或いは笑いを爆発せしめることはあるが、生命を奪うまでに、人体を苦しませることはしていないようです。だが、どちらにしても茸に中《あた》った毒は、河豚《ふぐ》に中った時と同じことに、その薬がなく、救済方がなく、ただ時という医者をもって、生かすか、殺すかの処分を待つほかは手段がないそうですから、この場のなりゆきも、手を束《つか》ねて見ているよりほかはありますまい。
右の如く、底止《ていし》することなき、突発の椿事が椿事をうみ、天井から先に火がついて、室内をパッとすさまじい明るさにしてしまいました。それと共に、大入道の出すような赤い舌がメラメラとして、室の四隅を上から下へと舐《な》め廻して来たので、さすが動乱している会衆も、その異様な赤味と、赤味が煽《あお》る熱さとに、いたたまれなくなっ
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