の舌の根を見ておくんなされ。おじさん、お前こそ、お前こそ怪しい」
「怪しいとは、何が怪しい」
「胸に聞いてごろうじろ、お前は、お前はとうからこの川杉家を覘《ねら》っていた」
「聞捨てならん、こいつが、この席で、皆様の前でこうしてくれる」
徳兵衛は、よほどこたえたと見えて、いきなり、角之助の頬っぺたを、強《したた》かにつねり上げる。
「あいた、た、た」
「うぬ、こうして、こうして、その横に裂けた口をいたしめてくれよう」
「合点《がってん》だ、人でなしをかばうは人でなし、おじとは思わん」
「うむ」
「こん畜生」
「獄道」
叔父と甥とが棺の前で、組んずほぐれつ、大争いを捲き起したのはほとんど束《つか》の間《ま》の出来事で、最初から、この寄合いが掴《つか》み合いになるまで手を束ねて、呆気《あっけ》に取られていた会衆が、ここに至るとじっとしてはおられません、一時に仲裁に向って立ち上りました。
二十四
叔父は甥の口を両手で引裂こうとし、甥は叔父の両鬢《りょうびん》をむしり取ろうとして、取っ組んで、棺の前に重なり合い、転がり合っている二人の身体《からだ》に、立ち上った仲裁
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