に、さんざんに悪口を言って、人間の皮をかぶった獣《けだもの》じゃとばかりおっしゃって、交際《つきあい》も、口きくこともせなんだじゃないか、それを何と思って、こんなに肝煎《きもいり》ぶりをなさるのは、たいがい様子が知れたものじゃ、お前はこの、川杉屋の身代が欲しくって、そうして、それで今更、取ってつけたような追従《ついしょう》をなさるのやろ」
「何、何を言いやる、わしが川杉屋の身代が欲しいから、それでこの席を取持つ、阿呆もほどほどにしておきなされや、ほかの言い分とは違うぞや。生きてるうちはともかく、死んでしまってみれば、こうもするのが世間様への礼儀、人情じゃ、たとえ犬猫が死んでも、道路へ抛《ほう》りっぱなしにもしておけない、そ、それを、わしが好きこのんでするのみか、ここの身代が欲しくてするとは、聞捨てのならないたわごと。痩《や》せても枯れても新家の徳兵衛は、妻子を食わすだけの用意は欠かさぬぞ、貴様こそ、そんな言いがかりをして、この身代が欲しいのやろ」
「笑わせなさんな、親類寄合いの時、わしをこの家の後嗣《あととり》にと、相談のきまったのを、こんなけがらわしい家はいやと、きっぱり断わったわし
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