光ったりして、湿っているうちにも、かなりの人間味が漂うべきはずであるが、この席に限ってほとんどそれがないのです。
 お義理だから集まっては来たけれども、いずれも、むっつりとした顔をして、特に何かの故人のしのびごと[#「しのびごと」に傍点]を言い出でようという者もなく、どうして発見して、誰がいつ持って来たかということを、念を押す者もなく、よく見つかったという者もなく、悪く持ち帰したという者もなく、全くお義理で、イヤイヤながら寄って来たという空気が充満して、全く白けきったお通夜の席が出来上りました。
 こんな空気の中に、たった一人、目立ってハシャイでいるのは、新家《しんや》の徳兵衛といって、イヤなおばさんには甥《おい》か何かに当る、それでも、もう相当の年配で、三十七八というところ、女房も、子供も、充分に備わってしかるべき分家の主人であります。
 この男が、万事をとりしきって、白けきった席の蝋燭《ろうそく》の心《しん》を切らしたり、湿っぽい席に笑いの種を蒔《ま》かせたり、ひとりで、座を取持とうとしている努力が見えます。その努力が報いられて、一座の連中とても無言の行《ぎょう》をするために集まっ
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