……」
「この屋敷で、葬式を営みたいと申すのか」
「恐れながら、左様な不浄の次第ゆえに、公家様《くげさま》にはこのところを御動座あそばされるようにお願いでござりまする、二の丸に新たに御座所の用意を仕り置きました故に、明日にもあれへ、御動座のほどお願い致したい儀でござりまする」
次の間で、用人がこれだけのことを、平身低頭して申し入れたのを、問答|体《てい》に聞いて、これまで来ると、貴公子が暫く沈黙してしまいました。でも、兵馬との碁を打つ手は休めないで、返答のみ途切れていたが、やがて、
「それは一応聞えたが、それまでには及ぶまいにな。生きて戻ったものならば、わしも一儀なく、この屋敷を明渡してよろしいが、主人が死んでしまっている上は、主人とはいえまい、やっぱり、わしが主人じゃ、わしが許すから、遠慮なくこの屋敷で葬儀をとり行え」
「えッ」
用人は呆《あき》れてしまう。
「死んだ人が生きたものを走らせることは、諸葛孔明《しょかつこうめい》のほかにはないことじゃ、おうおう、これは其方《そのほう》が何かと言いかけるものだから、死んだはずの宇津木の石が、どうやら生き返ったわい。よしないことを其方が
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