け聟《むこ》に行ったところも面白いな。君も知ってるだろう、山岡は静山《せいざん》といって、日本一の槍の名人さ――とにかく飛騨の高山は、昔、悪源太義平、加藤光正、上総介《かずさのすけ》忠輝といったような毛色の変った大物が出ているよ。毛色の変った人物といえば、近頃てこずった難物――と申し上げては少々恐れ多いが、とても扱いにくいエラ物《ぶつ》がおいでになって、拙者も弱り切っている。そうだ、君でも当分あの方のお傍にいて、お伽《とぎ》をつとめてもらうと助かるがなあ――

         十六

 兵馬は、その「新お代官」の謂《い》うところの難物――というのが、何人であるかを知らず、押して尋ねてもみないで、その夜は辞して帰り、その翌日はまたも昨日と同じ道場で、稽古をつけてやっていると、そこへ不意に、一人の小冠者が走《は》せつけて来ました。
 小冠者といっても、これは兵馬がしばしば驚かされつけている宇治山田の米友の類《たぐい》ではありません。年は十七八、ほぼ兵馬と同年輩だが、一見、小冠者というよりも、貴公子というべきものであることは確かです。
 薄化粧しているかとおもわれる白面紅顔に、漆《うるし》
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