た。
もう数十人の稽古者が集まって、入りかわり立ちかわり、師範か代稽古か知らないが、大兵《だいひょう》の男を中心にぶっつかっている。他の隅々には、それぞれドングリ連が申合いの試合をしている。その景気を見て兵馬も一時は感心に打たれましたが、そうかといって、その盛んさがどうも雑然として締りがない。やっている連中を見ると、だらしなく参るのや、勢いこんで猛牛の如く荒《あば》れ廻るのや、先後の順も、上下の区別も血迷ってしまっているのが多い。そうして、なお、後から後から繰込んで来る面《かお》ぶれを見ると、百姓や、町人風はまだいいとして、ドテラを引っかけた博徒、馬方の類《たぐい》としか見えないのが、懐ろ手で乗込んで来るのを見ては、唖然《あぜん》として口のふさがらない次第です。
これらの連中、ともかく、一応の礼儀をする、次に道具のつけ方を見ていると、正式に結ぶのもあるが、股引《ももひき》の上へじかに胴をくっつけるのもあり、ドテラの上へ直ちに道具をつけるのもあって、それらが申合いをすると、見ている者がドッと笑います。
やがて代稽古らしい大兵の人が、稽古をやめ、道具を取って兵馬の方へ来て挨拶をしまし
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