た、
「どうか、これらの連中に、一本稽古をつけてやっていただきたい」
とのことです。兵馬はかえって、それを面白いことに思いました。
「おやすい御用です」
士分連も相当にいたのですけれども、それらは、少年兵馬を見るに異様な眼を以てして、進んで稽古をこおうとはしませんから、兵馬は、それにかまわず、借受けた道具をつけて道場の一方に立ち上ると、代稽古の紹介を待たず、勢いこんで躍《おど》り出したのは、猛牛のような一人。
少年兵馬の物々しさを侮って、いきなり、
「お面!」
と打ちこんで来ました。
それを兵馬が、ちょっとかわして、肩のところを竹刀《しない》で押えると、地響きを立てて横に倒れました。その、鮮かな初太刀が、集まっているすべての竹刀を休ませて、兵馬一人を見つめて、仰天の態《てい》です。
出鼻をぶっ倒された猛牛は、起き上るが早いか、覚えたかといわぬばかりに滅多打ちに打ちかかって来るのを、兵馬は軽くあしらい、軽く外《はず》し、あんまりくっついて来る時は、また軽い突きで二三間|刎《は》ね飛ばすと、猛牛が忽《たちま》ちヘトヘトになってしまいました。
猛牛が難なく退治せられたと見ると、道場
前へ
次へ
全163ページ中45ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング