、いつ白骨からおいでになりました」
「昨晩、夜どおしで参りました」
「それは、それは」
久助さんも改めて、その釣台を見直すのでありました。
それというのも、自分も昨日、白骨を立ったのであるが、こんな人には行逢わなかった。多くもあらぬ白骨谷に籠《こも》る面々には、みんな近づきになっているはずだのに、あの中には、いずれも一癖ありそうな人ばかりで、急にこんなになって運ばれねばならぬ人は、一人も見かけなかったのに、はて、不思議のこともあればあるものと見直したのですが、お雪ちゃんも同じ思いです。
「そうして、なんでございますか、御病人は、白骨で病み出しておいでになりましたか」
「はい、どうもとんだ災難でしてね」
「どちらのお方でございますか」
「高山の者なんですが、ついつい、あんなところに長居をしたばっかりに、こんなことになってしまいました、ホンとによせばよかったのですがね」
「ははあ」
久助も、お雪ちゃんも、ほとんど烟《けむ》にまかれてしまいました。
白骨は、つい今まで自分たちの隅々隈々《すみずみくまぐま》までも知っていたわが家同様のところ、どう考えても、急にこんなになりそうな人は思い
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