》を絞って、つき添っているのは、夜通しの旅であったことを想わせ、その人たちが、真中にして担《かつ》いで来たものが釣台であり、戸板であるのに、蒲団《ふとん》を厚くのせていることによって、これは急病人だと思わせられます。
 その急病人の上には、形ばかり蒲団をかけてあるが、その上に白布《しらぬの》をいっぱいにかぶせてある体《てい》を、馬上にいたお雪ちゃんが、最もめざとく見て、そうして、はて、これは急病人ではない、もう縡切《ことき》れている人だ、お気の毒な、急病の途中、高山までよいお医者の許へとつれ出してみたが、もうイケないのだ、気の毒な――とお雪は、よそながら同情してしまいました。
 久助さんも、同じように見たとみえて、その人たちに向って、
「御病人でございますか」
「はい――どうも、いけませんでな」
 一行の肝煎《きもいり》が、はえない返事。
「お気の毒でございます、こんな山方《やまかた》で、急病の時はさだめてお困りのことでござんしょう」
「はい、どうもなんにしても、こんな山坂の間でござんすから」
「どちらからおいでになりました」
「白骨から参りました」
「え、白骨から、左様でございますか
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