、自分は、その傍らに徒歩《かち》でつきそって、平湯の湯を立ち出でることになりました。
 平湯峠の上、峠といっても、この辺では最も容易《たやす》い峠のうちで、乗物ですれば知らぬ間に過ぎてしまうほどの峠――それでも峠の上の地蔵堂らしいところの前で、ちょっと馬を休ませ、駕籠の息杖を休ませました。馬上で、平湯の方をふり返ったお雪は、なんとなく名残《なご》りの残るものがあるように覚えました。
 万事をいたわる久助を――かりそめながら犠牲にあげるという心持に打たれて、見るに忍びない気にもなりました。

         十

 平湯峠の上で一行が暫く休んでいる時に、後ろから、つまり自分たちがいま出て来たところの平湯の方から、息せき切って上って来る数多《あまた》の人々を認めました。
 まもなく、その一行は、ここまで登りつめてしまった。非常に急いでいた旅ではあるらしいが、さすがにここに来ると、一息入れないわけにはゆかないから、その一行も、お雪ちゃんの馬の程遠からぬところへ荷物を置いて、ちょっと挨拶《あいさつ》のようなことを言いながら休みました。
 都合七八人の人が、いずれも弓張提灯《ゆみはりぢょうちん
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