す。その間に地の理を見定め聞き覚えたお雪は、これはどうしても、久助さんのいう通りに、明日にもここを出立して、飛騨の高山までは、どうにもこうにも同行をまぬがれないものと思いました。
万事は高山で――と決心の臍《ほぞ》を固めました。
高山へ行けば、あれを後ろに廻って、船津《ふなづ》から越中へ出る街道がある。南へ折れれば南信濃か、岐阜方面へ出るが、真直ぐに行くと白川街道だと教えられる。
どのみち、こうなった上は、高山まではありきたりの路を踏まねばならぬ。そこまでは約八里、そんなに遠いほどの道ではないのに、途中、平湯峠というところが少々難所だけで、あとは坦々《たんたん》たる道、馬も駕籠《かご》も自由に通るとのことだから、やっぱり、万事は高山まで。高山へ着いてから、久助さんをまい[#「まい」に傍点]てしまわなければならぬ。それは気の毒なことではあるが、それよりほかに道はない。
白川郷へ、白川郷へというお雪ちゃんの空想がさせる大胆な冒険は、もう心のうちで翻《ひるがえ》す由もありません。
それとは知らぬ従者役の久助は、宵のうちに馬と駕籠とを頼み、お雪は荷物と共に馬に乗り、竜之助は駕籠に乗せ
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