導かれて、縁の外へ出ると、その間、お雪は肌の寒さをこらえて障子の外に立って待っていました。そうして、見るともなく夜の空を見ると、ここも山国とはいえ、白骨よりは、はるかに天地の広いことを感ぜずにはおられません。
白骨は壺中《こちゅう》の天地でありましたけれど、ここは山間の部落であります。溶けて流れない沈静が、ここへ来ると、なんとなく陽気に動いていることを感じます。
お雪は、白骨に残して置いた同行の久助さんのことを考えました。
わたしたちは一足先に平湯へ行っているから、荷物をとりまとめ、強力《ごうりき》を頼んで、二日や三日は遅れてもかまわないから、あとから来て下さいと言って置いて、白骨を抜け出すには抜け出したが、お雪ちゃんの本心を言うと、この辺で久助さんをまい[#「まい」に傍点]てしまいたいのです。
これは大きな冒険でもあり、謀叛《むほん》でもあるけれど、この場合、そうするよりほかはないと考えています。あの人は決して邪魔になる人ではないが、忠実過ぎるほど忠実であることが、大きな邪魔のように思われてなりません。
どうしたものだろう、ほんとうに……それを今も思案しているところへ、竜之
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