助が廊下を渡って出てきました。それを見るとお雪ちゃんは、素直に柄杓《ひしゃく》を取って、竜之助の手に水をかけてやりました。
 その時に一番鶏が啼《な》きました。

         九

 かくて三日を過している間に、白骨から久助が、委細をとりまとめて、抜からぬ面《かお》でやって参りました。
 噂《うわさ》を聞くと、白骨に籠《こも》っているあの一種異様な人たちが、根っからこの冬を動こうともしないらしく、ことにまだお雪ちゃんとその連れである不思議な病者が、ここを去ったということをも気がつかないで、
「お雪ちゃん、またこのごろ雲隠れ、お嫁さんにでも行ったのか」
なんぞと噂をしているとのことです。久助はそれとなく、平湯から高山へ行って、また戻るようなそぶりで、なにげなく荷物をまとめて出て来たとのことです。
 お雪ちゃんは、久助が万事よくしてくれたことを表面は喜びましたが、内実は、また一当惑と思います。
 この久助さんを、ズッと白骨に残して置けるものならば残して置きたかったし、なおできるならば、国へ先に帰してしまいたいと思うけれども、それはどうしても、できないことだし、そんならばいっそ久助さん
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