、間違いはありません、白馬からの下り道に違いはありません。
 ただ四辺《あたり》の光景が、こんなふうに変ってしまったのは、下り道を間違えたせいでしょう。それにしても、ちょっとも疲れていない自分の身を不思議だと思いました。
 どうも、なんだか、この白い小袖が、鶴の羽のようにふわりと空中に浮いて、白馬の頂《いただき》からここまで、自分の眼は眠っている間に、誰かが、からだをそっと持って来て置いてくれたもののようにも思われ、やっぱりすがすがしい心のうちに、なんとなく暖かな気持で、お雪ちゃんは岩の上に腰をかけて、涯《はて》しも知らぬ大きな湖の面の薄暗がりを、うっとりと眺めつくして、それ以上には、まだ何事をも思い浮べることも、思いめぐらすこともしようとはしません。
 その時鐘が一つ鳴りました。その鐘の音が、お雪ちゃんのうっとりした心を、よびさますと、あたりの薄暗がりが気になってきました時、湖の汀《みぎわ》の一方から、タドタドと人の歩んで来る姿を朧《おぼ》ろに認めたお雪ちゃんは、じっとその方を一心に見つめていましたが、夕もやを破って、その人影がようやく近づいた時、
「あ、弥兵衛さんだ、弥兵衛さんが来
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