出しました。
「そうだ、ちげえねえ、そうだ、ちげえねえ」
と言って、座敷の真中へ出て踊り出したものだから、芸者連も乗り気になって、
「やっかいな金十」
と、糸助が三味線を弾きながら唄いました。
金十郎がそれにのせて、
「そうだ、ちげえねえ、おれはばかだ」
皿八がどんぶりを叩きながら、
「コリャ金十郎」
金十郎ひるまず、
「ちげえねえ、まんなかだ、おれは馬鹿だ」
糸助が、
「どう見ても金十郎、きんちゃ金十郎、チャララン、チャララン、チャララン、チャララン、金十郎のおきんや、景清《かげきよ》にかまった……きんちゃ金十郎、きんちゃ金十郎」
こうして、興がいよいよ会場に溢《あふ》れてくる間、プロ亀は、二十日鼠のように座敷をかけめぐって取持っている。
芸尽しがいよいよ酣《たけな》わになる、なかには名古屋|甚句《じんく》も聞える――
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出来たら出来たと言やあせも
こちらもカンコがあるわえのう
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と騒ぎ出したものもある。
その中にも、安直先生だけはすこぶる自重したもので、キチンと坐った座をくずさず、ぎゃくらっきょう[#「ぎゃくらっきょう」に
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