介しました。
 斯様《かよう》に讃められても安直は、ぎゃくらっきょう[#「ぎゃくらっきょう」に傍点]をうなだれて、あまり多くの口数を利《き》かずに控えて、あっぱれ折助連の代表だけの貫禄のあるところを見せましたが、金十郎は、おれも負けてはいないぞという気になって、二本差を二本ながら抜いてしまい、これを振り廻して、これが左青眼だとか、右八双だとかいって、型をつかって見せましたから、会衆がみんな大喜びで、
「なるほど、金十郎氏は強い、武術の型を心得ていることでは日本一だ、金十郎氏が、安直先生の傍へ控えていてくれるので、全く心強い」
 そのうちに、無礼講となって、オール折助連の芸尽しです。
 やがて、芸者が出て来て、皿小鉢を叩きはじめました。
 その中でも、老妓の糸助に、皿八というものが、正客の安直と、金十郎の前へ現われ、皿八がドンブリを叩き、糸助が、すががきを弾いて、
「おきんちゃ金十郎、コレきんちゃ金十郎」
と皿八がうたいながら、コンコンカラカラコンコンカラカラと、丼《どんぶり》の音をさせたものだから、さっきからいい気持になっていた金十郎が嬉しくてたまらず、やにわに、すっぱだかになって踊り
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